経営理念は本当に浸透している?調査で見えた「理念共有」と生産性の関係 ― 中小企業が今すぐ取り組むべきポイント
人的資本経営が注目される背景とは
近年、「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が増えています。
これは、社員を単なる労働力ではなく「企業価値を生み出す資本」として捉え、その能力や意欲を最大限に引き出そうとする経営の考え方です。
2023年からは、上場企業に対して人的資本に関する情報開示が義務化されました。こうした流れの中で、公益財団法人日本生産性本部は「上場企業の人的資本経営の浸透・従業員認知に関する調査」を実施しました。
この調査では、「人的資本経営の取り組みが従業員にどのように伝わっているのか」「経営理念の浸透が働き方にどのような影響を与えているのか」などが分析されています。
本記事では、この調査のポイントを整理しながら、中小企業にとっての実務的な示唆を解説します。
調査結果①:経営理念を説明できる社員は4割程度
まず注目すべき結果は、経営理念の浸透度に関する調査結果です。
調査によると、
自社の経営理念や行動指針について
・内容を理解している:54.3%
・新入社員に説明できる:40.2%
・社外の人に説明できる:39.5%
という結果でした。
つまり、「理解している」という社員は半数を超えていますが、自分の言葉で説明できるレベルになると4割程度にとどまることがわかります。
これは言い換えると、
◆理念は掲げている
◆しかし社員の行動や判断にまでは落とし込まれていない
という企業が少なくないことを示しています。
また、年齢別では55歳以上の社員で理念の理解度が高い傾向が見られました。
これは、在籍年数が長い社員ほど理念に触れる機会が多いことが影響していると考えられます。
調査結果②:人的資本施策は「社員に伝わっていない」
次に、人的資本経営に関する施策の認知についての結果です。
例えば、
・経営トップのメッセージ
・人材戦略と経営戦略の連動
・人材育成施策
・能力開発機会の提供
といった取り組みについて、社員の認知度は概ね4割前後でした。
さらに特徴的なのは、
「どちらでもない」という中立回答が3〜4割存在する点です。
これは多くの企業で
◆会社は施策を実施している
◆しかし社員には十分伝わっていない
という状態がある可能性を示しています。
人的資本経営において重要なのは、施策そのものよりも「社員がどう受け止めているか」です。
この調査は、そのギャップの存在を示していると言えるでしょう。
調査結果③:経営理念の浸透は生産性と強く関係している
今回の調査で特に注目すべき結果が、経営理念の浸透と職場環境・生産性との関係です。
調査では、経営理念の浸透度が高い企業ほど
・ワークエンゲージメント(仕事への意欲)
・心理的安全性
・生産性
が高い傾向が確認されました。
特に、ワークエンゲージメントについては
・理念浸透が高い社員:4.58
・理念浸透が低い社員:3.00
と、約1.5倍の差が見られました。
つまり、経営理念は単なる「飾りの言葉」ではなく、
社員の働きがいや仕事への意欲に大きな影響を与える可能性がある
ことが示唆されています。
理念は「掲げるだけ」では意味がない
多くの中小企業を見ていると、次のようなケースをよく見かけます。
・経営理念はホームページに書いてある
・朝礼で読み上げている
・しかし日々の仕事とは結びついていない
このような場合、社員にとって理念は「会社が掲げている言葉」に過ぎません。
一方、理念が浸透している企業では、次のような特徴があります。
・採用時に理念を重視している
・評価制度に理念が反映されている
・会議や意思決定で理念が使われる
つまり、理念が行動基準として機能しているのです。
今回の調査結果は、理念が単なるスローガンではなく、
組織の生産性や働きがいに関係する重要な経営要素であることを示していると言えるでしょう。
中小企業が理念を浸透させる3つの方法
中小企業の場合、上場企業のように大規模な人的資本施策を行う必要はありません。
むしろ、シンプルで継続できる仕組みが重要です。
ポイントは次の3つです。
① 理念を「判断基準」として使う
例えば
・採用面接
・クレーム対応
・新しいサービスの判断
などの場面で
「当社の理念に照らすとどうか」
という問いを使うことです。
理念は判断の軸として使われて初めて意味を持ちます。
② 会議で理念を言語化する
会議やミーティングの中で
・「この対応は理念に合っているか」
・「理念を現場でどう実践するか」
といった議論を行うと、社員は理念を「自分ごと」として考えるようになります。
理念は、繰り返し言語化されることで初めて浸透していきます。
③ 評価制度と結びつける
理念を本当に浸透させたい場合、
人事評価と結びつけることが効果的です。
例えば
・理念に沿った行動を評価項目に入れる
・理念を体現した事例を社内で共有する
といった取り組みです。
社員は評価されるポイントを理解すると、その行動を自然と意識するようになります。
まとめ:人的資本経営の出発点は「理念の共有」
人的資本経営という言葉は、どこか大企業の話のように聞こえるかもしれません。
しかし今回の調査結果を見ると、その出発点はとてもシンプルです。
それは、
会社の考え方を社員と共有することです。
経営理念が社員に伝わり、行動の基準として機能している企業ほど
・働きがい
・心理的安全性
・生産性
が高い傾向が見られました。
中小企業こそ、経営者の考えが社員に伝わりやすい組織です。
だからこそ、理念を「掲げるだけ」で終わらせず、日々の仕事の中で活かしていくことが重要です。
本質は、
「人を大切にする経営」をどう実践するかにあるのかもしれません。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
経営理念に関する電子書籍を多数出版。
»出版・メディア実績
