Z世代が選ぶ「ポートフォリオワーク」とは?―副業・兼業を前提にした新しい働き方にどう向き合うか
1.Z世代がつくる新しい働き方の潮流
Z世代(1990年代後半~2010年頃生まれ)は、「9時から17時、1社で定年まで働く」という旧来型の働き方に疑問を持ち、複数の仕事を組み合わせる「ポートフォリオワーク」を選ぶ傾向が強まっています。
これは本業に加えて副業・フリーランス・起業などを組み合わせ、自分のスキルや価値観に合わせて働き方を設計するスタイルです。AIやデジタルツールの発展が、個人が低コストで事業を立ち上げられる環境を整え、この潮流を後押ししています。
背景には、物価上昇や住宅価格の高騰といった経済的不安、社会保障制度や企業への信頼の低下、そして「自分らしく働きたい」という価値観の変化があります。特にZ世代は「安定よりも成長」「所属よりも自立」を重んじ、自己実現を目的に副業を選択する傾向が顕著です。
2.多様化する副業スタイルとAIの活用
Z世代の副業は、SNS発信、デザインやプログラミングなどのスキル提供、Eコマース、配達など多岐にわたります。YouTubeやTikTokなどのSNSを活用して自らブランドを築く例も増加。
また、AIの進化が大きな変化をもたらしています。ChatGPTなどの生成AIやCanva AIといったツールを活用することで、事業立ち上げのスピードが飛躍的に上がり、Z世代の約4割が「1週間以内に副業を立ち上げた」との調査結果もあります。
このように、Z世代にとってポートフォリオワークは単なる収入補填ではなく、自己実現とリスク分散を両立するキャリア戦略へと進化しているのです。
3.見落とされがちなリスクと課題
一方で、複数の仕事を掛け持ちすることにはリスクも存在します。
最たるものは、時間管理と健康問題でしょう。副業による過労や体調管理、そしてもちろん、本業への集中力低下。
また、AIが普及することで、誰でも一定品質の成果物を短時間で生み出せるようになり、「スキルの一般化」が進行するリスクも無視できません。
4.中小企業が取るべき対応とは
Z世代が重視するのは「自由度」と「信頼」です。副業禁止の就業規則では、優秀な人材を惹きつけられません。
むしろ、副業を前提とした柔軟な雇用制度を整備することが、これからの中小企業に求められます。
たとえば、
・事前申請制による副業許可制度の導入
・勤務時間外の活動に対するガイドライン整備
・本業と副業の相乗効果を後押しする仕組みづくり
など、リスク管理と柔軟性のバランスが重要です。
副業を通じて社員が新しいスキルを獲得したり、人脈を広げたりすることは、会社にとっても貴重な資産になります。実際、経済産業省も「副業・兼業の促進に関するガイドライン(2022年改訂)」で、副業を「人材育成の機会」と位置づけています。
中小企業では、「副業」というと、まだまだパートタイマー社員の「ダブルワーク」的な発想が主流でしょうから、正社員でも副業推進となれば、他社に先駆けて差別化にもなりえます。
5.働き方改革の第2ステージへ
社会保険労務士として注目すべきは、「働き方改革」は“時間の改革”から“働き方の多様化”へと進んでいるという点です。
Z世代のポートフォリオワーク志向は、「一人の人間が複数の役割を持つ時代」の象徴とも言えます。中小企業はこれを脅威ではなく、組織活性化のチャンスとして捉えるべきです。
副業を認めることで、社員のモチベーションや創造性が高まり、結果として離職防止にもつながります。一方で、労働時間管理や労災・社会保険の取り扱いなど、法的整備を怠るとトラブルの原因になります。
そのため、「制度設計」と「現場運用」の両輪での対応が不可欠です。
6.実務ワンポイントアドバイス
副業・兼業制度を導入する際のポイントは、「禁止」か「許可」かの二択ではなく、リスクを可視化してルール化することです。
たとえば、
・申請手続きと報告義務の明確化
・副業先が競業・利益相反に該当しないかのチェック体制
・副業時間の把握と健康管理体制
などを整備しておくことで、トラブルを未然に防げます。
また、副業を通じて社員が得た知見やスキルを社内で共有する場を設けることで、組織全体の成長にもつながります。副業を「個人の自由」ではなく「会社の学び」として捉える視点が、これからの人事戦略に求められます。
まとめ
Z世代の台頭により、「会社にすべてを委ねる時代」から「自らキャリアを設計する時代」へと変わりつつあります。
中小企業がこの変化を理解し、柔軟な制度と信頼関係を築くことが、次世代の人材確保のカギになります。
副業を「制限」ではなく「いっしょに育てる」の機会として捉える――それが、Z世代と共に未来をつくる企業の新しい姿勢です。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
経営理念に関する電子書籍を多数出版。
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