中小企業の「後継者難」倒産が急増中!経営者が今すぐ取り組むべき事業承継の3ステップ
「社長が倒れた瞬間、会社も止まった」——ある経営者の現実
「あと2、3年は現役で頑張るつもりだったんです」
そう話してくれたのは、地元で30年続く製造業を営む68歳の社長でした。
突然の病で入院し、現場は混乱。取引先対応も滞り、社員たちは不安に包まれました。幸い、事業はなんとか再開できましたが、「もし自分に何かあったら、うちの会社はどうなるのか」と社長は深く考えたと言います。
実はこのような“後継者不在による危機”は、全国で増え続けています。2025年1〜9月の「後継者難」倒産は332件。代表者の不在によって、長年守ってきた事業が突然途絶えるケースが後を絶ちません。
経営者の高齢化が進むいま、事業承継は“明日の話”ではなく、“今日から始める経営課題”です。
この記事では、社会保険労務士として現場を見てきた立場から、後継者問題の実態と、今すぐ取り組むべき実践ステップを解説します。
後継者不在による倒産が依然高水準
2025年1〜9月に発生した「後継者難」倒産は332件。前年同期をわずかに下回ったものの、依然として過去2番目の高水準です。代表者の死亡や体調不良といった「経営者リスク」による倒産が全体の8割を超え、特に資本金1,000万円未満の小規模企業では、経営者1人に業務と意思決定が集中している傾向が顕著です。
つまり、「経営者が倒れた瞬間に会社も止まる」という構造的な脆弱性が、今なお日本の中小企業の足かせになっています。
「経営者の高齢化」と「技術承継の断絶」
中小企業庁のデータでも、70歳を超える経営者が全体の約3割を占めています。経営者の引退時期が重なる“2025年問題”が目前に迫る中、後継者が決まらず、長年培ってきた技術や取引関係が断絶するケースが増えています。
特に製造業や建設業など、技能の属人化が進む業種では「技術の継承」が難航し、事業そのものが消滅するリスクも。「事業承継は技術承継でもある」という視点は極めて重要です。
なぜ事業承継の準備が遅れるのか
経営者が事業承継の準備を先送りにしてしまう理由は、主に3つあります。
1つ目:「誰に継がせるか決まらない」。身内に適任者がいない、または後継者が経営を望まないケースです。
2つ目:「会社の現状を見せたくない心理」。債務や経営課題を後継者に負わせたくないという思いが強く、結果的に相談が遅れます。
3つ目:「どこに相談すればよいか分からない」。自治体や金融機関、商工会議所など支援窓口は多様ですが、それらの連携が十分とは言えません。
こうした背景から、経営者の“決断の遅れ”が倒産リスクを高めているのです。
中小企業が取るべき3つの実践ステップ
事業承継は「経営」「財務」「人」の3つの軸から早期に取り組むことが重要です。
ステップ① 経営の見える化
まずは、経営者の頭の中にある“勘と経験”を文書(可視)化・数値化すること。取引先リスト、主要顧客、経営方針、現場の判断基準などを整理し、引き継ぎ可能な状態を作ります。
ステップ② 財務の健全化
金融機関や税理士などと連携し、負債や担保の整理を進めます。後継者に「安心してバトンを渡せる状態」を整えることが、承継を現実的にします。
ステップ③ 人材と技術の継承
単なる経営権の移譲ではなく、“現場力”を次世代に伝えることが大切です。ベテラン社員の技術を動画やマニュアルに残し、若手社員が学べる仕組みを社内教育として定着させましょう。
ひとラボが提案する“後継者難対策”の現場実務
事業承継の失敗要因は「制度よりも人」です。
経営者が元気なうちに「将来を語る場」を持つことが第一歩。たとえば、次世代候補者や幹部社員と月1回の“経営会議体験”を実施するだけでも、経営理念や判断軸が自然と共有されます。
また、就業規則や評価制度に「後継者育成」の視点を組み込むことで、若手社員の成長意欲を高めることも可能です。
さらに、承継後に起きやすい「労使トラブルの予防」も欠かせません。経営者交代後は、就業条件の変更や人事評価方針の見直しが生じやすく、社員の不安を招きます。承継前に経営理念や評価基準を整理し、「一貫したメッセージ」を共有しておくことが、円滑なバトンタッチにつながります。
“経営理念の承継”こそ、最も大切なバトン
後継者難による倒産は、一見「経営者の引退問題」に見えますが、実際は“企業文化の継続性”の問題です。
「自分の会社をどう残すか」という問いは、「自分の想いをどうつなぐか」という経営理念の問いでもあります。
今こそ、未来を託せる“仕組み”を整えるタイミングです。早めの準備が、会社を、社員を、そして経営者自身の想いを守ります。

人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
経営理念に関する電子書籍を多数出版。
»出版・メディア実績