安定と成長のバランスを求める新入社員:幸せの4因子から学ぶ職場環境の作り方
2025年度の新入社員を対象に行った調査で、彼らのキャリア志向や働き方について興味深いデータが得られました。本記事では、その調査結果を通じて、新入社員の意識や希望する職場環境について解説します。
主な調査結果
1.年功序列と成果主義の選好
・56.3%が「年功序列を望む」と回答し、「成果主義を望む」回答を上回りました。
・69.4%が「終身雇用」を希望し、51.8%が「同じ会社に長く勤めたい」と回答するなど、安定志向が強調されました。
2.働く環境としての希望
・「仕事はそこそこ大変だが、成長が実感できる環境」が58.8%で最も魅力的であると回答されました。
3.上司や先輩に対する期待
・66.7%が「細かく教えてくれること」を上司や先輩に期待しており、その他にも平等な接し方や建設的なフィードバックを求める声がありました。
新入社員の安定性と成長の機会の重視について
新入社員の多くが「安定した雇用」を求めると同時に、「成長できる環境」を強く希望していることが調査で明らかになったと言えるでしょう。これは、経済の不確実性や将来のキャリアに対する不安から、安定した職場環境を求める傾向が強くなっているためです。特に年功序列や終身雇用を望む新入社員の割合が増加していることから、企業に対して安定した働き方を求める気持ちが強いことがわかります。
一方で、単なる安定だけでは満足せず、自己成長の機会を求める声が多く聞かれます。新入社員は、仕事を通じて自分の能力を高め、成長を実感できることを重要視しています。これは、現代の若者がキャリアの中で自己実現や充実感を感じることに価値を見出しているためです。企業は、安定性を提供するだけでなく、挑戦的な環境や成長の機会も提供することが求められています。
そこで、「安定」や「成長」といったキーワードを考えるうえで、参考にしたいのが、慶応義塾大学大学院教授の前野隆司氏が提唱する「幸せの4因子」です。
前野教授の幸せの4因子とは
前野教授が提唱した「幸せの4因子」とは、人が幸せを感じるために重要な4つの要素を指します。これらは以下の通りです。
・「やってみよう」因子(自己実現と成長)
夢や目標に向かって努力し、成長していく過程で幸福度は増します。自分の力で何かを達成することは、自己効力感を高めます。一方で、「やらされている感」ややる気のない行動は、幸福度を低くします。自分の意志で行動し、成長を実感することが重要です。
・「ありがとう」因子(つながりと感謝)
周囲とのつながりを大切にし、感謝の気持ちを持つことで、人は幸せを感じます。思いやりや親切な行動が、職場や家庭での良好な人間関係を生み出し、幸福度を高めます。逆に孤独感や孤立は、幸せを感じにくくさせます。
・「なんとかなる」因子(前向きと楽観)
物事を楽観的に捉え、常に前向きな姿勢で取り組むことが、幸せを感じる秘訣です。どんな困難に対しても「なんとかなる」と思い、ポジティブに挑戦を続けることで、自分の幸福感は増します。
・「ありのままに」因子(独立と自分らしさ)
他人と自分を比較することなく、自分らしさを大切に生きることが、幸福感を高めます。自己肯定感が高く、他者に振り回されずに自分の価値観を持っている人は、幸せを感じやすいです。一方で、過度に他人と自分を比べすぎることは、幸福度を下げる原因になります。
これらの因子は、個人の幸福感や満足感に大きな影響を与える要素であり、職場環境にも深く関わっています。
新入社員の安定性と成長の機会と幸せの4因子の関連性
これらの因子は、新入社員がどのように職場で幸福を感じ、モチベーションを高めるかに大きな影響を与えます。以下に、それぞれの因子と新入社員のニーズとの関連性を見ていきましょう。
1. 心理的安全性と安定性の重視
新入社員が安定した雇用を求める背景には、心理的安全性が確保された職場で働きたいという欲求があると考えられます。心理的安全性とは、職場で失敗や不安を感じることなく、自由に意見を述べたり、間違いや問題を指摘できる環境のことです。このような環境で働くことができると、新入社員は自分の考えや行動に対して安心感を持ち、仕事に対して積極的に取り組むことができます。
・企業のアプローチ:組織の中に心理的安全性が高い職場を確保することが、社員の自己肯定感を高めます。具体的には、意見が尊重され、失敗が学びの機会として受け入れられる環境を提供することが重要で す。心理的安全性が高い職場では、新入社員は自分が価値のある存在だと実感し、職場での安心感を得ることができるため、チーム内で積極的に意見交換を行い、創造的なアイデアや問題解決に貢献しやすくなります。
2. 自己効力感と成長機会
新入社員が「成長の機会」を重視する理由には、自己効力感を高めるための欲求があると考えられます。自己効力感とは、「自分にはできる」という感覚であり、これは仕事を通じて自分の能力を高めることで得られます。挑戦的な仕事やスキルアップの機会を提供することによって、新入社員は自己効力感を高め、成長を実感できます。
・企業のアプローチ:キャリアパスを明確にし、成長できる業務を任せることで、新入社員は自信を持って仕事に取り組むことができ、自己効力感を育むことができます。新たなスキルを習得することを通じて、自分の成長を実感する機会を提供することが重要です。
3. 人間関係の充実と職場環境
新入社員が「細かく教えてくれること」や「平等に接してくれること」を重視する背景には、人間関係の充実という因子が関わっています。人間関係の充実は、他者とのつながりや支援を感じることから生まれます。職場で信頼関係が築かれることで、社員は自分が大切にされていると感じ、人間関係に満足感を得ることができます。
・企業のアプローチ:上司や先輩が積極的に新入社員に対してサポートを提供することで、職場内でのつながりが強化され、人間関係の充実感が生まれます。メンター制度や定期的なフィードバックを行うことによって、職場での人間関係の質を高めることができます。

人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
経営理念に関する電子書籍を多数出版。
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