人手不足に悩む中小企業へ:「地方・中小企業の5つの課題」と労働政策の最新動向
■ はじめに:中小企業に今、何が起きているのか?
近年、中小企業の経営者から「人が採れない」「人が定着しない」という声をよく耳にします。
人口減少や都市部への若者の流出、そして働き方の価値観の変化が背景にあり、これらの要因が複雑に絡み合って、地方の中小企業を直撃しています。
そんな中、2025年4月に労働政策審議会が発表した報告書「急速に変化する社会における、地方や中小企業での良質な雇用の在り方」より中小企業経営者に必要な視点を読み解き、実践につなげるヒントをお伝えします。
■ 報告書の背景:AI時代と人口減少がもたらす雇用の危機
日本では生産年齢人口の減少が進み、地方では特に若年層の流出が深刻です。
加えて、AIやデジタル技術の急速な進化が産業構造を一変させており、企業の雇用の在り方そのものが問われています。こうした背景から、本報告書では地方の中小企業における「5つの課題」を明確にし、労働政策の今後の方向性を示しています。
■ 地方・中小企業に共通する「5つの課題」とは?
1. 賃金や労働条件の低さ、および情報発信の不足
都市部と比較して、地方の中小企業は賃金や福利厚生が見劣りする傾向があります。
そのうえ、企業としての魅力を発信する手段も限られており、人材確保の競争に出遅れている状況です。
2. インフラを支える職種での処遇の弱さ
建設、介護、運搬などの現場職は、社会を支える重要な役割を担っています。
しかし、その待遇は決して良いとは言えず、若年層が敬遠しがちです。報告書では「賃金とスキルの見える化」が提言されています。
3. 多様で柔軟な働き方の不足
テレワーク、副業OK、時短勤務といった柔軟な働き方が都市部では進む一方、地方の中小企業ではまだ限定的です。この差が「働きにくさ」や離職の原因にもなっています。
4. 固定的な性別役割意識による若年女性の流出
特に若年女性の地方離れが加速しています。その背景には「家事・育児は女性が担うべき」という固定的な意識や、女性がキャリアを描きづらい職場環境があります。
5. 専門人材の活用におけるミスマッチ
優秀な人材は都市部に集中していますが、地方の中小企業が必要とするスキルとは乖離しているケースも。報告書では、副業・兼業人材の活用やスキルの標準化、リスキリング支援の強化が提案されています。
■ 解決の糸口:労働政策審議会が示した4つの方向性
課題の解決に向けて、以下の4つの政策方向が示されています。
1. 労働生産性の向上
2. 労働参加率の向上
3. ジェンダーギャップの解消
4. 情報ギャップの解消
■ 「攻めの労務管理」を
「人が採れない」「辞めてしまう」といった声。
確かに、人口減少や都市部への若者流出など、構造的な問題はあります。
しかし、それを理由に何も変えなければ、状況は今後さらに悪化していくばかりです。
そこで今、必要なのが「守り」ではなく「攻め」の労務管理です。
ただ法律を守るだけではなく、どうすれば人が集まる職場になるか、どうすれば辞めない環境をつくれるか。その視点を持つことが重要です。
たとえば、柔軟な働き方への対応。
テレワークや時短勤務、副業OK制度などは、小規模な会社でも、「この時間帯だけ働いてもらう」「子育て中の社員を在宅で活かす」など、工夫次第で導入可能です。
また、もちろん、経営理念の明確化もポイントです。
「うちは何のためにこの事業をやっているのか」「これからどうなっていきたいのか」――
それをきちんと伝えることで、社員の納得感や定着率は大きく変わってきます。
さらに、採用活動においても「自社を知ってもらう」ことが重要です。
採用ページの改善や、地元イベントへの参加など、できることは多くあります。
採用に強い会社は、例外なく「情報発信」が上手です。
■ おわりに
人材不足は「仕方がないこと」ではありません。
今ある課題を整理し、きちんと対策することで、状況は必ず変えられます。
労働環境の整備は、社員のためだけでなく、経営者の安心にもつながるものです。
ご自身の会社に合った働き方改革、これを機に一度考えてみてはいかがでしょうか?

人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
経営理念に関する電子書籍を多数出版。
»出版・メディア実績