中小企業の福利厚生は“費用”ではなく“投資”──採用・定着に効く「今どき福利厚生」の考え方
1.福利厚生の充実を進める企業が増加中
帝国データバンクの最新調査(2025年9月実施)によると、全国の企業の47.6%が今後福利厚生を充実させる予定であることが明らかになりました。
特に「内容を充実させる」が17.4%、「内容・金額の両方を充実させる」が25.6%と、約半数の企業が“福利厚生の見直し”に動いています。
業界別では、建設(58.7%)や運輸・倉庫(55.1%)など人手不足業界が上位を占めました。
採用・定着率の向上を目的とし、「人が辞めない環境づくり」へ舵を切る企業が増えています。
2.中小企業では「導入したいが余裕がない」現実も
一方で、中小企業の充実予定率は45.8%、小規模企業では38.5%にとどまりました。
「最低賃金の引上げなどコスト増により導入の余裕がない」「福利厚生よりも賃上げが優先」といった声も多く、現実的な課題が浮き彫りになっています。
ただし、「制度を充実させたいが資金的に難しい」という声は、裏を返せば“社員を大切にしたい”という意欲の表れです。
実際、法定外福利厚生の導入意欲そのものは、中小企業の方が大企業を上回る(49.4%)という結果も出ています。
3.見直される「社員旅行」──交流と帰属意識の再構築
今後取り入れたい制度のトップは、意外にも「社員旅行(11.4%)」でした。
コロナ禍を経てレクリエーション活動が減少する中、「社員同士の交流の場を取り戻したい」という声が高まっています。
かつての“慰安旅行”ではなく、チームビルディング型のイベントや家族同伴型の企画など、「関係の再構築」を目的とするケースが増えています。
たとえば、若手社員が幹事となり企画する“社内リトリート”なども注目されています。
経営理念やビジョンを語り合う時間を設けることで、社員のエンゲージメントが高まり、職場の一体感を育む効果があります。
4.働き方の柔軟化もカギ──フレックスタイム導入の波
もう一つの注目制度が「フレックスタイム制」(同率11.4%)です。
2025年10月施行の改正育児・介護休業法では、3歳~就学前の子を育てる従業員に対し、柔軟な働き方(フレックスや短時間勤務など)の選択肢整備が義務化されました。
この法改正をきっかけに、中小企業でも柔軟な勤務制度の整備が加速するかもしれません。
「一律9時始業」から、「個人の事情に合わせた勤務設計」へ。
これは単なる制度変更ではなく、多様な社員が働きやすい環境づくりそのものです。
結果的に、採用対象の拡大や離職防止にもつながります。
5.福利厚生の本質は「心理的報酬」にある
福利厚生というと「費用がかかる」と思われがちですが、重要なのは“どんな制度を入れるか”ではなく、“社員にどう伝わるか”です。
社員が「自分のことを考えてくれている」「この会社にいてよかった」と感じる瞬間こそが、福利厚生の最大の効果です。
つまり、お金ではなく“心理的報酬”の設計がカギです。
たとえば、
・感謝を伝える「表彰制度」
・家族を巻き込む「感謝イベント」
・健康を気づかう「人間ドック補助」
など、「社員の人生を支える」姿勢を見せることで、給与以上の満足感を生み出せます。
特に中小企業では、経営者と社員の距離が近い分、制度よりも“温かいメッセージ”が響きます。
「うちはお金がないからできない」ではなく、“小さくても伝わる福利厚生”をデザインする視点が大切です。
6.実務ワンポイントアドバイス:中小企業でもできる3つの施策
① 「ゼロコスト福利厚生」を活用する
・自社製品の社員割引、地域飲食店との提携、感謝デーの実施など、コストをかけずに“嬉しさ”を演出できる工夫を。
・福利厚生代行サービスも、中小企業向けの低コストプランがあるので検討の価値アリ。
② 「理念×福利厚生」で一体化する
・経営理念に「社員と家族の幸せ」を掲げるなら、その理念を体現する福利厚生に。
・例:誕生日に手紙を贈る「ありがとう制度」や、家族向け感謝イベントなど。理念が形になる仕組みは、採用ブランディングにも効果的です。
③ 「小さく始めて、続ける」
・すべてを一度に導入する必要はありません。
・まずは1つの制度を試行し、社員の反応を見ながら育てていくことが重要です。
・“続けられる仕組み”こそが最大の福利厚生です。
まとめ:福利厚生は「会社の人柄」が表れる鏡
福利厚生は、制度そのものではなく、会社が社員をどう見ているかの“姿勢”を映し出すものです。
採用・定着の差は、給与額よりも「この会社で働く安心感」に現れます。
中小企業だからこそできる“温度のある福利厚生”を、少しずつでも形にしていきましょう。
 
    人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
経営理念に関する電子書籍を多数出版。
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