ベテラン社員が元気をなくす理由──“中年の壁”を越える会社の関わり方とは?
「2人に1人が“ミッドライフクライシス”を自覚──見えない生産性低下の現実」
株式会社野村総合研究所の調査によると、40〜50代の就労者のうち53%が「ミッドライフクライシス(中年の危機)」を自覚しており、そのうち約75%が仕事のパフォーマンス低下を感じていることが分かりました。
老化や体力の衰え、将来の健康不安、経済的なプレッシャーなどが主な原因で、「出勤しているが集中できない・成果が出ない」状況が多く見られるといいます。
さらに注目すべきは、「親の介護や健康状態」を不安要因として挙げる人が、実際に介護していない層でも約45%にのぼる点です。
つまり、「介護目前の不安」も仕事への影響を及ぼしているのです。
「ミッドライフクライシス」とは──“家庭・健康・仕事”のはざまで揺れる中年期
40〜50代は、仕事では中核として多くの責任を担い、家庭では親の介護や子の自立といった転機に直面する時期です。
「昇進しても喜べない」「体がついていかない」「家族の健康が心配」──こうした心身の負荷が重なることで、燃え尽きやモチベーション低下を招くことがあります。
特に中小企業では、役職層やベテラン社員の代替が効かず、心身の不調がそのまま業績リスクになることも珍しくありません。
一方で、本人も「自分が弱音を吐くわけにはいかない」と無理を重ね、プレゼンティーズムが長期化する傾向があります。
「“支援制度”よりも“語れる場”が先」──メンタル不調の予防策としての“対話”
重視したいのは、企業ができる「早期の気づき」と「対話の仕組み」です。
40〜50代の社員は、「自分が会社を支えている」という責任感が強く、体調やメンタルの不調を口に出せません。
したがって、制度(健康診断・メンタル休暇)よりも、まず“話せる場”の構築が効果的です。
たとえば、
・上司との1on1ミーティングを月1回設定する
・キャリア面談を「評価」ではなく「これからの働き方」テーマで実施する
・「親の介護不安」など私的な話題も共有できる雰囲気を作る
これらは、実際に離職防止やモチベーション維持に貢献するでしょう。
中小企業において40代~50代の社員に対する、私的な話題も含めた“語れる場”を作ることができるのは、やはり経営者になってくると思います。難しく考えることなく、「何でも話を聞くよ」という、ふところの深い姿勢で話し合える場を持つことか大切だと思ってもらえればいいと思います。
40〜50代社員の“活力”を取り戻す3つの取り組み
① 健康投資を“管理コスト”から“経営資源”へ
健康診断だけでなく、体力測定やメンタル測定を年1回実施し、本人と上司が共有。
「数字」で状態を可視化することで、早期の変化に気づきやすくなります。
② “キャリアの棚卸し”の機会を設ける
昇進や転勤だけが成長ではありません。
「自分の経験をどう若手に活かせるか」「これからどんな役割を果たしたいか」を言語化するキャリア面談を実施しましょう。
自己肯定感の回復は、パフォーマンス向上に直結します。
③ “介護予備軍”への支援策を整える
介護休暇制度だけでなく、「親の健康相談ができる機会づくり(窓口設置)」「介護保険制度の社内説明会」などを整えることで、社員の安心感が増します。
実際に介護が始まる前の“予防的支援”が、長期的な安定に効果的です。
2025年4月より、「介護離職防止のための個別の周知・意向確認等および介護休業制度などについての情報提供を行わなければならない」という法改正もありました。
40・50代の元気が会社の未来をつくる
40代・50代は、企業の「知恵と経験の柱」です。
その層が不安や疲弊でパフォーマンスを落とせば、組織全体の士気や生産性も下がります。
ミッドライフクライシスは「個人の悩み」ではなく「企業のリスク」。
健康と働きがいを両立できる環境づくりこそが、中小企業の競争力を支えるカギです。

人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
経営理念に関する電子書籍を多数出版。
»出版・メディア実績